- 2025.12.24
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- 研修
研修の内製化② PM/PMOグループ主催の「ドメイン駆動設計(DDD)」で切り拓く、価値創造の道
私たちは「学び続ける組織づくり」を目指し、研修の「内製化」を積極的に推進しています。前回は、ジュニアエンジニア向けの「開発時に必要な法令研修」を実施し、ものづくりに不可欠な基礎知識の習得を支援しました。
そしてこの度、内製化の取り組みの第二弾として、PM/PMOグループ主催で定期的な勉強会の開催を行いました。今回はそのうちの一つ、「ドメイン駆動設計(DDD)」について取り上げます。PM、PMO、スクラムマスターといったプロダクト開発の中核を担うメンバーはもちろん、プロダクト開発に携わる多くのエンジニアも参加し、より高度な設計思想を学び、プロダクトのビジネス価値を最大化するための探求を行いました。
PM/PMOが「技術的知見向上」に挑む理由
PM/PMOグループがなぜ定期的な勉強会の開催という形で、内製研修を企画したのでしょうか。今回の講師を務めたHさんに、その背景と想いを聞きました。
「PM/PMOグループでは、第60期の目標の一つとして『技術的知見の向上』を掲げています。PM/PMOは直接プログラミングや設計書の作成といった開発実務は行いませんが、技術的な知識がなければ、開発者と同じ目線で会話ができません。それは、作業の見積もりが甘くなったり、最適な意思決定ができなかったりといった不都合に直結します。システム開発に携わる以上、技術理解はマネジメントにおいて不可欠であるという認識から、グループ内で勉強会を企画するに至りました。」
この言葉からは、単なるマネジメントに留まらず、技術の深い理解を通じて開発チームとの連携を強化し、より質の高いプロダクトを生み出そうとするPM/PMOグループの強い意志が伺えます。
経験豊富なエンジニアが講師として、DDD研修を牽引するまで
数ある技術テーマの中からDDDを選び、Hさんが講師を務めることになった背景にも、当社の「学びを深める文化」が表れています。
「当初から、PM/PMOグループが企画する勉強会なので、講師もできる限りグループ内のメンバーが担当しようという方針がありました。私自身、以前バックエンド開発グループに所属しており、DDDを活用して開発する経験があったため、他のメンバーよりも深く理解していると自負していました。それが今回、講師を務めることになった理由です。」
さらに、今回の対象者がマネージャー層であったため、Hさんは資料作成に多くの時間を費やしたと語ります。
「DDDは非常に広範囲なテーマなので、マネージャー層の方々に確実に理解してもらえるよう、資料作りには特に注力しました。特に、第61期でR&D本部の方針として掲げている『ドメイン知識』というところに焦点を当て、本質的な価値が伝わるよう工夫しました。」
自らの経験と知識を活かし、受講者の視点に立って準備を進める姿勢は、まさに当社の「プロフェッショナル」としてのこだわりを体現しています。
「なぜ今、DDDなのか?」ビジネス価値最大化の鍵を握る設計思想
今回の勉強会では、講師のHさんが、ドメイン駆動設計(DDD)について、その目的、概要、重要性、そして具体的な実践方法まで幅広く解説しました。
HさんはDDDを「顧客と開発者が共通言語で会話して一体感あるチームとして、ビジネス価値の高いソフトウェアを開発する手法」と定義。特に「共通言語での会話」と「ビジネス価値の高いソフトウェア開発」の2点が重要であると強調しました。
これにより、顧客が本当に求めるものを深く理解し、開発されたプロダクトとの間に生じる乖離を防ぎ、「使われないシステム」となる問題を根本から解決できると説明します。
2003年に体系化されたDDDですが、ITプロダクトの価値変化が激しい現代において、マイクロサービスアーキテクチャの文脈などでその価値が再評価されています。従来の開発手法で課題となりがちなロジックの点在による保守性の低下に対し、DDDが採用する「ドメインモデルパターン」は、業務領域の知識や概念をドメインモデルに集約し、業務とコードの一致を実現します。
この勉強会はPM/PMO層の理解を深めることを主眼としていましたが、多くの開発者も参加することで、ビジネスサイドと開発サイドが共通の視点を持つことの重要性を改めて共有する貴重な機会となりました。
DDD導入がもたらす4つの具体的なメリット
勉強会では、DDD導入による具体的なメリットが4点挙げられ、参加者は熱心に耳を傾けました。
1.顧客視点でのソフトウェア構築
プログラマーとドメインエキスパート(業務の専門家)が共通言語で視点を合わせることで、顧客が開発するかのごとくソフトウェアを構築できます。これは、まさに「顧客を巻き込んだプロダクト開発」の実践です。
2.業務知識の洗練と共有
業務領域を深く検討することで、チーム全体で業務知識を洗練し共有できます。組織全体の知見向上に繋がり、プロダクトの品質向上を加速させます。
3.設計とコードの一致
共通言語をそのままプログラムとして実装することで、設計とコードが一致し、開発時の「翻訳」やそれに伴うコストが不要になります。これにより、開発効率と品質が向上します。
4.システム開発の「事業投資」化
システム開発を単なるコストではなく、明確なビジネス価値を生み出す「事業投資」へと変化させることが可能になります。
実践的な概念と、参加者の熱意が導いた活発な議論
DDDを実践する上で欠かせない以下の概念についても詳しく解説されました。
・ユビキタス言語
ドメインエキスパートとソフトウェア開発者が同じ言葉を使って共同でモデルを作り成長させる手法。チーム間のコミュニケーションのずれを解消し、複雑な概念の整理につながります。
・コアドメイン
ビジネスの価値につながる最も重要なドメイン。
・境界づけられたコンテキスト
言葉の意味を明確にするために、コンテキスト(文脈)ごとにドメインを分割する設計手法。
・コンテキストマップ
定義されたコンテキスト間の関連性をまとめる図。マイクロサービスアーキテクチャにおいて、開発単位が分かれる際の関連性を意識した開発を促進します。
また、DDDは「戦略的DDD」と「戦術的DDD」の2つのアプローチで行われることが解説され、ビジネス全体を管理しやすく分割する戦略的DDDと、複雑な業務ロジックをソフトウェアで表現する戦術的DDDの連携の重要性が強調されました。
勉強会の後半では、参加者からの質問が相次ぎ、DDDへの深い関心と、日々の業務における課題意識が伺えました。
・Aさんからは、分析モデルと設計モデルの関係性や、開発者からのフィードバックの役割について質問があり、業務理解が深いドメインエキスパートからのフィードバックの重要性が再確認されました。
・Bさんからは、戦略的DDDと戦術的DDDの連携をスクラム開発でどう実践するか、またUIにおけるDDDの適用可能性について質問がありました。講師のHさんは、すり合わせはプランニング時に行うべきであり、UIにも適用可能で、DDDの疎結合の考え方とは相性が良いと説明しました。
これらの質疑応答を通じて、DDDが単なる理論に留まらず、実際の開発現場でどのように適用し、顧客への価値提供に繋げていくべきかという実践的な視点が深まりました。
「反響の大きさ」が語る、学びの連鎖と未来への展望
勉強会後の反響について、Hさんは手応えを感じているようです。
「勉強会実施後の反響が思ったよりあったなと思っています。参加してくださった方から後で直接感想をDMでいただけたりして、とてもありがたかったです。質問も多く寄せられました。」
参加者の熱意は自身の学びにも繋がったと言います。
「勉強会の中で戦略的DDDと戦術的DDDの説明をしていたのですが、実際のプロジェクトでどうやって取り入れたらいいんだろう、という点は分かりづらかった部分もあったと思います。もう少し具体例を含めて説明できていれば、参加者の解像度ももっと上がったのではないか、というのが反省点になります。」
この反省点からは、学びを一方的に提供するだけでなく、常に改善を追求し、より深い理解へと導こうとするHさん、そして当社の「学び続ける組織」としての真摯な姿勢が垣間見えます。
今後の勉強会の展望についても、Hさんは意欲的です。
「第60期での基礎知識に関する勉強会が好評だったため、第61期でもCCPMやPMBOKのようなマネジメント寄りのテーマをさらに深掘りしていきたいです。また、新しく取り組む議題としては、AI活用に関する勉強会をPM層向けに開催し、業務改善の具体的なフレームワークを紹介していければと考えています。」
基礎から応用、そして未来を見据えたAI活用まで、多岐にわたるテーマで継続的に学習の機会を提供していく当社の取り組みは、社員の成長を力強く後押しします。
未来を共に創る仲間を求めて
今回のDDD勉強会は、前回の法令研修とは異なる層の社員を対象としながらも、「個人の成長を組織の成長へとつなげ、組織の成長を次世代にフィードバックする」という内製化の大きな目的を体現するものでした。
DDDの学びを通じて、PM/PMOメンバーは、より顧客のビジネスに深くコミットし、本質的な価値を創造するための視点と手法を獲得しました。そして、開発者も交えて共通言語で議論を深めることで、チーム全体としてのプロダクト開発能力が向上し、まさに「組織のアップデート力の強化」に直結するものとなりました。
当社では、このような実践的な学びの機会を積極的に提供し、社員一人ひとりの成長を支援しています。常に最新の技術や手法を取り入れ、顧客に真の価値を届けるプロダクト開発を目指す当社で、私たちと一緒にビジネスを加速させませんか?